老猫を保護しました①
ずっと気になっていたネコがいました。
飲み屋の扉のところにいつもいるネコ。
そこのママさんにかわいがられていて、お水とごはんが置いてあります。
「みみちゃん」と呼ばれていたので、ある日「みみちゃん」と呼んでみると、ニャーとお返事をしてから伸びをして、スリスリしはじめました。
とても人懐こくて、色んな人にかわいがられていました。
それからみみちゃんと会えた日は名前を呼んで撫でるようになりました。
今年の夏。
みみちゃんは肩甲骨がゴツゴツ見えて、痩せてきているように見えました。
背中に毛束ができて、そこだけピンと立っています。
飲み屋の常連さんが
「このネコはすごい生きてるんだよ。もう16年は生きてるよ。」
と、みみちゃんが高齢猫であることを教えてくれました。
どうやら高齢で毛づくろいがうまくできなくなっているようです。
痩せたのはノミに吸血されているせいなのか、腎臓が悪いのか、よくわかりません。
みみちゃんのところにはファンがたくさんやって来ます。
会えた人には声をかけ、ケア的なことは誰もやっていないらしい、というのを確認して、月1回、接触のあるネコも一緒にノミ取り薬を後頭部に垂らすことにしました。
できてしまった毛束はフェルト化がすすんでいたので、付け根を摘んで、摘んだ先をカットして、根本をコームで解します。
みみちゃんの毛を梳かすために毎日通いはじめました。
謎の使命感でした。
11月30日。
日が暮れる前にみみちゃんのところへ行き、背中を撫でると、腰のあたりが濡れていました。
撫でた手を見ると、血がついていました。
濡れていたところを覗き込むと、生肉のようなものが見え、そこから血が出ています。
そういえばここ数日、毛が変に固まっているなぁと思っていた箇所です。
ほぐそうとすると今までになく嫌がっていました。
平日会えるのは陽が落ちてからだったので、よく見えなかったのです。
私はネコアレルギー持ちのネコ好きです。
ネコカフェに90分いると鼻水が垂れてきて、クシャミがとまらなくなります。
それでもいつかネコと暮らすことを考え続けていたし、激やせみみちゃんを見てからは保護の2文字が頭の中にありました。
同居する母は反対していましたが、夏休みには大掃除をして、台風の前日には早退してネコトイレとキャリーバッグを買いに行き、捕獲しようとして失敗していました。
みみちゃんはとても優しいネコです。人には絶対手を出しません。
ネコ好きな子どもが近寄っても、逃げずにじっと撫でさせてあげます。
撫で方が乱暴で嫌な時はその場を離れるだけです。
ある日突然みみちゃんの縄張りに現れた、耳カット済の若い雄ネコのことも、追い払わずに受け入れました。雄ネコは当初首に怪我をしていて、人間に対してとても怯えていましたが、みみちゃんと行動をともにするようになってからは、みみちゃんと仲良しの人間には近付けるようになりました。
みみちゃんはずっとずっとここにいて、色んな人に心を開き、かわいがられていますが、ごはんやおやつには困らなくても、怪我の面倒を診てくれそうな人はいません。
みみちゃんは血の出てくる場所を気にして舐めています。舐めて治るような傷には見えません。
「かわいそうに」
撫でながら涙が出てきました。そして覚悟を決めました。
ここから一番近い動物病院に電話をかけました。通話中です。
少し間をあけて再度かけますがつながりません。
そこの動物病院は外から待合室が見えるのですが、いつ通っても人と犬でぎゅうぎゅうだったことを思い出しました。野良猫を診てくれるのかもわかりません。
2番目に近い動物病院に電話をかけると、すぐに繋がりました。
野良猫でも診てくれるかを尋ねると
「大丈夫ですよ。診療時間内に連れてきてくれれば診ます」
とのことで、ここに決めました。
キャリーバッグを取りに家に戻ります。
母に「みみちゃんが怪我をして出血している。病院へ連れていく」と宣言。
お金がかかるからやめておけとか、野良には野良の生活がとか、色々言われましたが
「かわいがっているのに、血を流しているのに、どうして放っておけるのか」
と強行捕獲に向かいます。愛と正義の暴走です。
飲み屋の向かいの駐車場にみみちゃんはいました。
キャリーバッグの中におやつを仕掛けます。
みみちゃんは台風前日の件があったので、警戒してキャリーバッグを見ています。
興味津々なのは若い雄ネコちゃんで、中に入っておやつを食べて、満足げに出てきました。あの警戒心はどこへやら。悪い人に捕まらないように気をつけてほしいです。
そんなことをしているうちに、私がネコと遊んでいるときに通りがかると話しかけてくる顔なじみのおばあさんがやってきました。
おばあさんに事情を話して、キャリーバッグを立てて、みみちゃんの目の前におやつを置きました。
おやつを食べてる最中に抱き上げて、キャリーバッグに入れようとしますが、布製のやつなので後ろ足の爪がひっかかって入りません。
一度みみちゃんを下ろします。逃げようとしますが、ヨタヨタしているのですぐに捕まえられます。
二度目はおばあさんがキャリーバッグの入り口を支えてくれて、入れることができました。おばあさんに感謝です。
おばあさんは、ママさんの飲み屋で昼カラオケをやっている店主のおじさんが出てきたところも見逃さず、おじさんに声をかけてくれました。
いつかみみちゃんを保護するときは、長年ごはんをあげ続けていたママさんに話を通さなければと考えていたので、みみちゃんを病院へ連れていくことと、私の連絡先をママさんに伝言してほしいとおじさんにお願いしました。
おばあさんに「がんばってね」と見送られながら、病院へ向かいます。
みみちゃんは不安そうにずっと鳴いています。
肩にずっしりと命の重みを感じます。